I M様からご依頼で、ダイキャスト製完成品・12式装甲歩行戦闘車の修理を行いました。
手のひらに乗るくらいの小さい完成品で、極細の可動部分に亜鉛ダイキャストの荷重がかかるため、当然のように数箇所のジョイントが破損していました。破損部分の修理、および不安定な箇所の補修を行います。
慣れていない素材ですので、まずは簡単な部分から手をつけました。腰のジョイントはシンプルな構成です。歪んだ穴を真円に彫り直し、プラ材でジョイントを作りました。ただやはり慣れていない亜鉛キャストの加工はとても難しいと感じました。刃物が噛まないし、押し込んで噛みすぎると割れてしまいそうです。刃物の選択が重要になると思いました。
また、まったく想定してなかったのですが内部が空洞になっている部品がありました。突き抜けるまで肉厚が分からないので強度や直進性が取れなかったりなど、全体的に神経質な工作になりました。
頭部パーツのジョイント新造。ここもシンプルな構造なので、最初に工作しました。胴体の穴を大きめに広げて、強度と制度をアップしました。
ここから背中のメインエンジンの補修です。
もともとは可動式になっていたのですが、ジョイント基部が破損していて、修理するにも肉厚がまったく不足です。固定で仕上げることも考えたのですが、結果的には可動で仕上げるほうが強度が取れると判断しました。
今回のような構造の場合、固定よりも可動のほうが強度が取れるという、一般的な設計思想とは逆になります。どういうことかというと、固定の場合は重量の振動による負荷が一点に集中してしまう、そのため応力が集中する部分が簡単に破断してしまう。しかし可動にしておけば、多少の振動は可動部が吸収してくれるので、構造的な破損は防止できることになります。
試行錯誤が長かったのですが集中していたため途中写真がありません、この写真はほぼ最終的な状態になります。ボールジョイントの基部だった部分を削り落とし、基部を平らにしたあと、ネオジム磁石を接着した状態です。
接着しなくても、ネオジム磁石同士の吸着だけでもポジションを維持してくれて、十分な強度があります。もちろん最終的には強固に接着を行います。
メインエンジンには穴を開けて、ネオジム磁石を仕込みます。
小さい部品ですので、ネオジムの磁力だけで可動も保持も十分な性能を持つことができました。万が一不意な荷重がかかっても、磁石が外れる・くっつけるだけで元に戻せます。構造的な破損の心配がない、安心感の高い取り付け方法です。
メインエンジンを囲むようになる主翼の基部。この部品との干渉も大きなポイントでした。
メインエンジンのエレベーション可動機構が、無事完成しました。
次に、股間の関節です。ボールジョイントが破損しています。修理するにも元々のジョイント構造が非常に不安定なので、根本的な改善が必須になります。ここも最初は固定を想定して試行錯誤してたのですが、テコの原理で応力が集中する股間接続部の強度がどうやっても取れないため、前述の通り可動軸を設置する方針にしました。
まず不均等な穴を、精度の高い真円に彫り直します。
理想は4mmとかのキリの良い穴を開けると作業が楽なのですが、肉厚が限られているため3.4mmという2次加工3次加工の必要な穴になります。そこにピッタリの外形と、できるだけ大きいけど肉厚を破損しない程度の内径を開けたスペーサーを削り出して、埋め込み。理想は接着剤なしでもピタッとフィットする精度です。0.05mm以下の精度です。
ピッタリのジョイントは存在しないので、既存のジョイントを加工しながら取り付けます。
キットに仮組みして、ピンバイスに固定して微調整し、またキットに仮組みして・・・を繰り返します。
いい感じで収まりました。
股間のパーツはどうしても肉厚が足りないので、ほんとうにギリギリの差し込みで収まるようにしました。左側の股間はマウント部まで破損していたのですが、彫り込みも肉盛りも不安定要素が多良いので、できるだけ現状維持で収まるようにしました。
自立するために必要な強度を確保することができました。今回のリペアで一番難しい部分が終わりました。
小翼は荷重がかからない部分なので、接着面を整えて接着剤で取り付けします。
腕の接続は破損もなく、無理していじるよりも現状維持がベストと判断しました。
バラバラだった機体が、しっかり自立するようになりました。
みなさまに、楽しい模型ライフを!